その年はいつもとなんだか様子がちがっていた。
 梅雨もなかばをすぎたというのに、雨がいっこうに降らないのだ。
 お天道さまのこと、村人たちにはどうすることもできない。
 みな不安そうに雲のない青空をあおぐばかりだった。
 こどもたちの笑い声はやみ、聞こえてくるのは泣き声ばかり。
 そのことが、何よりも竜の胸をうずかせた。
 竜は村人たちに、沼の水をくみあげて使うようとりはからった。
 それで、どうにか田植だけはぶじにすますことができた。
 村人たちは竜をまじえ、ささやかな〝さなぶり〟(*)のお祝いをした。
 しかし、かれらの顔から不安の色が消えることはなかった。
 (*:田植が終わった後に田の神を送る儀式)

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