そこは菓子屋の得意先でもある伊平の家だった。
戸をたたくと、出てきたのは娘だ。
彼女は親切にも、汗だくの青年を家にあげてくれた。
家にはいま彼女一人らしい。聞くと、両親は用事で明日になるまで帰らないという。
村でも美人で評判の伊平の娘と二人きりというシチュエーション。
喜んで当然なのだが、青年にはどうにも気がかりなことがあった。
伊平の娘に、きつねとそっくりの耳と尻尾が生えていたからだ。
目をこすってなんべん見直しても、やっぱりきつねの耳と尻尾だ。
「これはひょっとして、きつねの宿ってやつだろうか?」
青年は厠を借りるふりをして、家の柱を確かめてみた。
すると、見た目は四角いはずの柱が、手で触ってみると丸く感じる。
どう考えてもアヤシイ・・

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