「何をいいだすだ!? 村のだれも竜の姉じゃを身代わりになんざしたかねえ!」
「そうじゃそうじゃ! 若いもんはみな、童のころからお主の世話になってきたし
いまだって、無理をいって沼の水を分けてもらってるでねえか。
このうえお主にそんなでけえ借りを作るわけにゃいかねえだ!」
茂吉をはじめ村の者たちはみな口々に叫び、竜を必死にとめようとした。
しかし、彼女は頑としてゆずらなかった。
「このままではいずれ渇きで幼子らの命まで失われよう。
沼の主として、それだけはだまって見すごすわけにはいかぬ・・・
まあ案ずるな。下界の民がこんなにも苦しんでおるというのに
一粒の雨もよこさず仕事をさぼっておる天竜どものほうが悪い。
わしが行ってかけあってきてやるわ」
「竜王がお主の訴えに耳を傾けるほど寛大だとは思えぬが・・・」
釈沖の口にした疑問に、竜はしばし無言だったが、やがて口を開いた。
「・・・もし、わしが罰を受け、身を砕かれることになったら
角なり尾なり寺に収めて供養の一つでもしてくれい。
さすれば、主のいなくなった沼を見守ることもできようぞ。
わ主も坊主のはしくれ、そのくらいのことは頼めるじゃろ」