ニンゲンがこの世に現れる以前から存在するはるか雲上の竜の国
いま、そこを治める偉大な八大竜王の御前に竜はいた。
地上のわびしい沼の主にすぎない小竜は
ほっそりした身をちぢこませてかしこまるばかりだった。
玉座の間に、八頭の竜王のとどろくような声が響きわたる。
「稚児よ稚児 哀れな幼き稚児・・・
己が行いの意味なすところを理解しているか」
竜は必死になって、天地ほど力の差のある竜王に訴えた。
「われはかの沼の主にございます。
沼を頼る小さき者どもを庇護するのも主のつとめ。
村人がこのまま渇き死ぬのを見すごすにはしのびませぬ」
「かの者たちの刹那の命など
わが眷属の前では夏の日の陽炎にすぎぬ。
情を移してなんとする」
「はかなき命だからこそ愛しゅうございます。
そのはかなき命が時を越えて連綿となく連なるが故に
なおのこと愛しいのでございます!」